山之口 貘(アルバム ブックレットから)  

貘  詩人・山之口貘をうたう  ( 高田渡 )

● 高田渡  ( たかだ・わたる )

1949年 岐阜生まれ。
2005年4月、公演先の北海道で倒れ、釧路市内の病院で4月16日死去。 享年56歳。

1967年、上京。 1969年、URCレコードから『高田渡/五つの赤い風船』でレコードデビュー。
その後、数々のアルバムを発表。 以下、代表アルバム。
  『汽車が田舎を通るそのとき』 1969 URC/キティレコード
  『ごあいさつ』 1971 キングレコード・ベルウッド
  『系図』 1972 キングレコード・ベルウッド
  『石』 1973 キングレコード・ベルウッド
  『ヴァーボン・ストリート・ブルース』 1977 フォーライフレコード
  『ねこのねごと』 1983 徳間ジャパン
  『渡』 1993 徳間ジャパン
  『貘』 1999 B/Cレコード
  『Best Live』 1999 アゲント・コンシピオ
  『日本に来た外国詩』 2001 アゲント・コンシピオ

2004年春、タナダユキ監督による映画「タカダワタル的」(アルタミラピクチャーズ)が公開され、今(2005年夏現在)も全国を巡回・上映中。 2005年6月には、この映画のDVDが発売された。
生のライブを見ることができなくなった今、残された貴重な映像である。
 

● 山之口 貘  ( やまのぐち・ばく )

1903年(明治36) 沖縄県那覇生まれ。 本名は山口重三郎。
少年時代から絵と詩に親しみ、早くから絵や詩を美術協会展や新聞に発表する。
1922年(大正11)、19歳で上京。 日本美術学校に籍を置いたが1ヵ月で退学。
住居や職の定まらない生活を送ったが、佐藤春夫や金子光晴の知己を得て、45歳で筆一本の生活に入った。
その後、みずからの生活を題材にした詩を書き続け、1963年(昭和38) 病没。
おもな著作に、『思弁の苑』『定本山之口貘詩集』『鮪に鰯』『山之口貘詩集』など。
 《 『山之口貘 沖縄随筆集』(平凡社ライブラリー/2004) 著者略歴 他を参照した 》

山之口 貘
(アルバム ブックレットから)
貘(CD盤面)
貘 (CD盤面)
山之口貘 著作
山之口貘 詩文集 (左)
山之口貘 詩集 (中)
沖縄随筆集 (右)

● 高田渡と山之口貘

自伝 『バーボン・ストリート・ブルース』 (山と渓谷社/2001)によると、高田渡が山之口貘の詩に出会ったのは、上京後、市ヶ谷高校の定時制に通っていた10代の終りである。

 僕が夜学に通い始めたころは音楽関係の知り合いもほとんどなく、アルバイトや授業の合間を見ては、ひとりこつこつと曲をつくったりギターの練習をしたりしていた。(略)
 そんななかで知ったのが、山之口貘である。(略)
 山之口貘の詩に魅かれた僕は、これを歌にできないものだろうかと思って、原詩に多少手を入れて曲を作りはじめた。
   《 高田渡 『バーボン・ストリート・ブルース』 》

1971年のアルバム『ごあいさつ』には、すでに、「年輪・歯車」「鮪に鰯」「結婚」「生活の柄」が収められている。
この頃から、高田渡は現代詩に曲を付けて歌うことを始めているが、その事情を自伝の中で説明している。

 僕が歌い始めた当初はほとんど自分で詩をつくっていたが、三枚目のアルバム『ごあいさつ』あたりからは既成の現代詩に曲をつけることが多くなってきた。 というのも、好きで現代詩をいろいろ読んでいたなかで、日常の風景を語りながらも静かに問題提起をしているという詩に多く出会ったからだ。 そういう詩を読むたびに僕は思った。 「そうなんだよ。力んでワーワー言えばいいというもんじゃないんだよ」と。
   《 高田渡 『バーボン・ストリート・ブルース』 》

映画 『タカダワタル的』 パンフレット
映画 『タカダワタル的』 パンフレット 2004

20代の若い時期に歌のスタイルを確立し、以後、30年にわたってそのスタイルを押し通した高田渡という人も、凄いと思う。
このアルバムは、山之口貘への〝トリビュート〟(tribute)ともいうべき作品。
彼と親交のあった大工哲弘、佐渡山豊、石垣勝治、嘉手苅林次、大島保克、内田勘太郎(憂歌団)らが参加している。
沖縄での録音。

アルバムのブックレットの最後に、高田渡のコメントがある。 その全文を紹介したい。

 山之口貘さんの詩に出会ったのは、ボクが十八の頃、一年程本棚の片隅に眠っていた。
・・・気がつくと貘さんのトリコになっていた、いつの間にか歌っていた。
 < ラングストン・ヒューズ詩集 >の名訳者で詩人・木島始さんはヒューズ本人に一度も会わずだったそうで。
「今想えばそれで良かったのかも知れない?!」と。
 ボクは今、やっと山之口貘さんに逢えた様な気がしています。
 ステキな詩は反芻(はんすう)しながら生きていくと思っています。   高田渡

 

● 「座蒲団」

山之口貘の詩の中でも、ぼくがとりわけ好きな一編がある。
わずか8行の短い詩で、おそらく山之口貘の自筆と思われるものが、このCDの盤面にプリントされている(上の写真)。
「座蒲団」というこの詩の全文を転載することは、著作権法上の問題がありそうだが、あえて紹介したい。
 《 山之口貘詩集(現代思潮社)から転載。 原詩は一行ごとに改行が入っているが、ここでは省略。 》

  土の上には床がある
  床の上には畳がある
  畳の上にあるのが座蒲団でその上にあるのが楽といふ
  楽の上にはなんにもないのであらうか
  どうぞおしきなさいとすゝめられて
  楽に坐つたさびしさよ
  土の世界をはるかにみおろしてゐるやうに
  住み馴れぬ世界がさびしいよ

高田渡の歌では、原詩の一部に手が加えられて言葉づかいが微妙に違っているが、不思議なおかしさ、かなしみが伝わってくる名曲である。 有名な「生活の柄」もいいが、ぼくは「座蒲団」の方が好きだ。
他にも、「深夜」(女房子供を質に入れようとして断られる夢の話)、「たぬき」(天ぷらの揚滓=たぬきをめぐる蕎麦屋の話)、「会話」(郷里の沖縄を女に説明しようとする話)など、とぼけた味のある秀逸な詩ばかり。
アメリカの民謡風メロディーと山之口貘の詩との抱き合わせがおもしろい。

 

● 収録曲データ

No 曲 名 詩・曲 演奏者 (括弧内は伴奏者)
1 年輪・歯車 有馬敲:詩/高田渡:曲
山之口貘:詩/高田渡:曲
高田渡/佐渡山豊/石垣勝治
(内田勘太郎/関島岳郎/中尾勘二)
2 結婚 山之口貘:詩/高田渡:曲 高田渡
(渋谷毅/関島岳郎/中尾勘二)
3 深夜 山之口貘:詩/高田渡:曲 高田渡治
(内田勘太郎/渋谷毅)
4 たぬき 山之口貘:詩/上野茂都:曲 つれれこ社中
 (=上野茂都/鈴木常吉/桑畑繭太郎)
5 座蒲団 山之口貘:詩/高田渡:曲 大工哲弘
(高田渡)
6 告別式 Ⅰ 山之口貘:詩/高田渡:曲 高田渡/石垣勝治
(渋谷毅/関島岳郎/中尾勘二)
7 玩具 山之口貘:詩/石垣勝治:曲 石垣勝治
(内田勘太郎/渋谷毅)
8 第一印象 山之口貘:詩/内田勘太郎:曲 石垣勝治
(内田勘太郎)
9 鮪に鰯 山之口貘:詩/高田渡:曲 ふちがみとふなと (=渕上純子・船戸博史)
 with 高田渡
10 頭をかかえる宇宙人 山之口貘:詩/高田渡:曲 ふちがみとふなと (=渕上純子・船戸博史)
 with 高田渡
11 山之口貘:詩/佐渡山豊:曲 佐渡山豊
(ローリー/桜沢有理)
12 会話 山之口貘:詩/佐渡山豊:曲 佐渡山豊
(ローリー/桜沢有理)
13 紙の上 山之口貘:詩/佐渡山豊:曲 佐渡山豊
(ローリー/桜沢有理)
14 告別式 Ⅱ 山之口貘:詩/高田渡:曲 嘉手苅林次
15 ものもらい
(原題:ものもらいの話)
山之口貘:詩/高田渡:曲 大島保克&オルケスタ・ポレ with 高田渡
(大原裕/中尾勘二/関島岳郎/船戸博史/芳垣安洋)
16 山之口貘:詩/高田渡:曲 大島保克&オルケスタ・ポレ with 高田渡
(大原裕/中尾勘二/関島岳郎/船戸博史/芳垣安洋)
17 夜景 山之口貘:詩/高田渡:曲 高田渡
18 生活の柄 山之口貘:詩/高田渡:曲 大工哲弘/高田渡
(渋谷毅)

( 2005/8/15-16, 8/20 )

inserted by FC2 system